千葉の老舗和菓子屋「もりしん」で買い物をし、売り手のあり方が勉強になった話。お客は私含め3人(老夫婦と私)と定員が1人。
「いらっしゃいませ」
着飾らない自然体の笑顔と声のトーン。色に例えるなら薄いオレンジのような雰囲気の店員さん。店内にBGMはなく、前の大通りを足早に過ぎ去る車の音だけが響く。
対面するガラスケースには今日に作られたであろう和菓子が所狭しと並び、私の中で定番の「かりんとう饅頭」の試食を一ついただく。
接客はない。客から声を掛けられたらタイムリーに応対するスタンス。それまではガラステーブルの向こう側で手際良く作業をしている。というか、目視しなくても背中で客の様子が感じ取れているようだ。
挨拶と作業の様子を見ているだけで、何を聞いても的確な答えが返ってくるような安心感さえ漂う。ほどなくして何となく良さそうな商品が見つかったのだが、お届け先のイメージに合うかどうか確信が欲しかったので質問をしてみた。
「もし店員さんがこの商品を届けるとしたら、どういう時ですか?」
少しキョトンとしたが、程なく笑顔で
「そうですね。記念日とか、何か喜ばしい時ですね」
即決。
本音かどうかは分からない。多分アドリブかもしれない。でも背中を押してもらえた気がした。店員さんは口にはしなかったが『ウチの商品なら大丈夫ですよ』。そんな裏メッセージを感じた。
会計後、こちらの用途を酌み取ったかのうように、手際良くキレイに包装をしていく。こちらから何も言わなくても、お届け用の手提げ袋に入れてくれ、入店の時と同じトーンで「お待たせしました。どうもありがとうございました」。
あぁ、接客ってこういうものなんだな、と思った。
現代人が一日に目にする広告は、およそ2000以上と言われる。商品やサービスがあふれ選び放題なのに、限られたお金を大切に使う時代。個人も法人も売り込まれる機会が多すぎて売られるイメージがマイナスに働く。
無理に売り込まれないことに心地よささえ感じる。無論、商品に実績と自信があるからこそだが、商品の代金に勉強代が含まれいると考えれば安くさえ感じた。
売らずして売る姿。勉強になりました。